2015年12月30日水曜日

2015年のベスト10冊を選んでみた。

4年振りのブログ復帰、ときどき、ぼちぼち更新予定です。
 
2015年の10冊を選んでみた。書店員の皆さん、本屋大賞1次投票、おつかれさまです。
今回は、小説じゃないものや、文庫化されたものを含みますので、本屋大賞よりももうちょっとバラエティに富んでいる、っていう感じの10冊+αです。ランキングではなくて、本棚から手に取った順。

1. 宮下奈都『羊と鋼の森』(文藝春秋)
http://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163902944


調律師という、かならずしも自分とは縁のない職業に就いた青年の成長ストーリーなのだが、なにか、自分にむかって書かれているように感じる。普通でも、特別な才能がなくても大丈夫という一貫したメッセージがある。
美しいものについての描写がとても多様。平文(ひらぶん)だが、詩を読んでいるようにも感じる。

ジャケ買い派にも大満足な牧野千穂さんの装画。この本には、いい羊がいるんです。 

紀伊國屋書店「キノベス2016」、王様のブランチ「ブランチブックアワード2015」大賞、第154回直木賞候補。みなさま、お目が高い。
 

【併せて読みたい】
宮下奈都『神さまたちの遊ぶ庭』(光文社)
http://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334978075


北海道に1年間の山村留学に来た宮下家をていねいに描くエッセイ。『羊と鋼の森』のそこかしこに出てくる美しい表現には、この森で育った言葉も多い。
この装画もかわいいですよね。文章もかわいいです。

『羊と鋼の森』を読んで、心が動かされたら、こちらもぜひ。
ある本屋さんで、特別な棚にこっそり5~6冊積んでいて、おお、こんな手があるかー、と、感動しました(近日公開)。

【これも、併せて読みたい】
今年の本じゃないので番外的に、もう、すげーいいぞ。美しい。雪の描写、きょうだいの思い、熱のある日の心細さ、震えます。蜂飼耳さんの文章も、牧野千穂さんの絵も美しい。絵本という芸術の最高到達点のひとつかと。
蜂飼耳・牧野千穂『ゆきがふる』(ブロンズ新社)
http://www.bronze.co.jp/books/post-86/

原画展も見に行ってしまい、そこで、牧野千穂さんの装画の『羊と鋼の森』にサインをいただきました(自慢)。『羊と鋼の森』は、宮下奈都さん、牧野千穂さんのダブルサイン本という、奇跡のような(超自慢)……

2. 辻村深月『朝が来る』(文藝春秋)
http://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163902739


白辻村/黒辻村という言葉があるそうだ。さわやかで明るい/ドロドロと暗い辻村作品をカテゴライズしたもの。だが、この作品は、典型的な黒辻村のように見えて、タイトルにあるような希望ある作品になっている。新境地、辻村深月さん最高傑作かも。
貧困、少子化、暴力といった社会問題、親子、夫婦、そして養子縁組という関係性の中で、ていねいに生きる価値のようなものが浮かび上がる。
きちんと構造化されていてうまい、テーマの重さはあるがいたずらに感動をあおるような小説ではない、辻村深月さん、実はちょっと苦手だったが、この作品はとても好き。

第4回静岡書店大賞小説部門大賞、第3回新井賞(三省堂書店池袋本店の新井さんが勝手に選ぶ賞)、という、あまり権威はないけど信頼できる賞を連続して受賞している。

三省堂書店池袋本店、改装中で書籍館が閉館している間に、別館の地下1階売場で、新井賞帯につられて買った本。

3. 澤田瞳子『若冲』(文藝春秋)
http://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163902494


最近の日本語変換が一発で「若冲」を変換するのがちょっと悔しい古くからの若冲ファン、ってなことは置いておいて、細密、精緻というだけでなく、若冲の持つ暗さ、没入するような心のありようをストーリーの主眼に置いた傑作。
若冲のゆるい、明るい側面も取り入れて、サブストーリーも作ってほしい。
2016年1月3日から、山種美術館で、「ゆかいな若冲・めでたい大観」という展覧会をやっていて、とても惹かれる。

八重洲ブックセンター八重洲本店で買ったサイン本。

4. 米澤穂信『王とサーカス』(東京創元社)
http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488027513


大傑作。作家米澤穂信が、文章を書くことについて、深く掘り下げた、まさに渾身の傑作。
事件を文章にすること、文章を売ってビジネスにすることを、主人公タチアライに突きつけられるものは、作家自身にも、そして読者にも突きつけられる。自分はプロとして、仕事に向き合っているか、誠実に対象に向かっているか。
怖い小説だ。だがこれを読んでよかった。

記憶が確かなら、あゆみBOOKS田町店で買った本(どこかで買わねばとずっと思っていたので、どこか他の本屋さんかも)。

【併せて読みたい】
米澤穂信『真実の10メートル手前』(東京創元社)
http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488027568

『王とサーカス』のヒロイン、タチアライの活躍する短編集。学生時代から、大手新聞社、そして独立してフリーの記者と、成長と変わらぬものを描いている。
実は推理小説が苦手(というか、ほとんどシャーロック・ホームズしか読んでない)だが、これは、いい。推理のための推理ではなく、真実に迫る必然として描かれている。『王とサーカス』で突きつけられたまま終わっていたテーマを、この短編集をたどることで、自分の中で身になっていくのを感じた。そういう意味では、単なるスピンオフ小説ではない。ぜひセットで読んでほしい。


以下、次回(5.~8.)に。

5. ミランダ・ジュライ、岸本佐知子『あなたを選んでくれるもの』(新潮クレストブックス)
http://www.shinchosha.co.jp/book/590119/

6. 岸政彦『断片的なものの社会学』(朝日出版社)
http://www.asahipress.com/bookdetail_norm/9784255008516/

7. ピーター・メンデルサンド、細田由依子『本を読むときに何が起きているのか 言葉とビジュアルの間、目と頭の間』(フィルムアート社)
http://filmart.co.jp/books/composite_art/honwoyomutoki/

8. 丸山正樹『デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳者』(文春文庫)
http://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784167904203

9. 田口幹人『まちの本屋 知を編み、血を継ぎ、地を耕す』(ポプラ社)
http://www.poplar.co.jp/shop/shosai.php?shosekicode=80080240

10. トマ・ピケティ、山形浩生、守岡桜、森本正史『21世紀の資本』(みすず書房)
http://www.msz.co.jp/book/detail/07876.html

+1. 山田あかね『犬に名前をつける日』(キノブックス)
http://kinobooks.jp/lp/inu-namae/

0 件のコメント:

コメントを投稿